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今年の夏は、池谷裕二さんの本を 何冊かまとめて図書館から借りてきて読んでいます。私が池谷さんの本を初めて読んだのは 数年前のこと。家人が借りていた 糸井重里さんとの対談『海馬』です。この本を読んで、年を取ることを かなり肯定的に捉えられるようになりました。

子どもの頃から 大人になることへのあこがれのようなものがあったからでしょうか、特にモデルとする人がいたわけではないのですが 年を取るということについて ずっと 楽観的なイメージを抱いてきました(*年を取ることに実感が持てなかった、ということもあるのでしょう)。子どもであることや若さに対する 特権的な意識はほとんどなく(*“甘え”は充分にありましたが…)、素敵な大人になりたい 素敵なおばあさんになりたい、つまりは いい年の取り方をしたい という気持ちが強かったように思えます。
それでも 年を重ねるにつれ 加齢に伴うさまざまな不具合について見聞きすることが増え、実際に自分の身体の動きの悪さを実感することも増え、生物としての機能は衰えていく一方 というイメージが拭えなかったのも事実です。

そんなとき『海馬』を読んで、減る一方だと思っていた脳の神経細胞は 年をとっても増え続けることができ(*すべてではなく 特定の箇所においてですが) 経験にともなって能力やはたらきを高めていくことができることを知り、ものすごく元気づけられ 未来がぱぁーっと開けたような気持ちになりました。


実はその時は 本の内容だけが印象に強く残り 著者である池谷さんの名前は 記憶に留まっていませんでした。そしてその後は たまに『海馬』のことを思い出すことはあったものの 脳についての本を読むことはなかったのですが、今年に入って身体に対する関心が再燃し 身体と脳の関わりが気になってきたことをきっかけに、たしか「内部モデル」についてネットで調べていたときだと思うのですが 池谷さんの本と再び出逢ったのです。

脳のクセを知ると、自分や他人の思い込みやその結果がもたらす意見の相違に対して 距離が置け かなり寛容になれるような気がします。
また、脳の最新の知見に触れると 年を取るのが楽しくなってきます。

いま言われているアンチエイジングとはまったく違う あらたな大人(あるいは成熟者)たちがうまれてくるような…。

どうも そのための主要な鍵(の一つ)は 身体のようです。

一回の通読では 内容を捉えきれないので(*脳は ゆっくり覚えていくものらしいので、それは理に適っているのです。笑)、ふたたび よみなおしながら 脳のスピードにあわせて ゆっくり消化し ゆっくり考えていきたいと思います。


 動物相手に実験しているとわかるんだけど、下等な動物ほど記憶が正確でね。つまり融通が利かない。しかも一回覚えた記憶はなかなか消えない。「雀百まで踊り忘れず」という言葉もあって、うわぁ、すごい記憶力だな…と、一瞬尊敬に近い気持ちも生まれるかもしれないけれど、そういう記憶は基本的に役に立たないと思ってもらったほうがいい。だって、応用が利かないんだから。
 記憶があいまいであることは応用という観点から重要なポイント。人間の脳では記憶はほかの動物に例を見ないほどあいまいでいい加減なんだけど、それこそが人間の臨機応変な適応力の源にもなっているわけだ。
 そのあいまい性を確保するために、脳は何をしているかというと、ものすごくゆっくり学習するようにしているんだよね。学習の速度がある程度遅いというのが重要なの、特徴を抽出するために。
 (略)
 もし、学習のスピードが速いと、表面に見えている浅い情報だけに振り回されてしまって、その奧にひそんでいるものが見えてこなくなっちゃうのね。
 みんな勉強してて、なかなか覚えられないな、と苦労することがあるかもしれないけれども、それはこの脳の作用の裏返しなんだよね。しょうがないんだ。ものごとの裏にひそんでいるルールを確実に抽出して学習するためには、学習スピードが遅いことが必須条件なんだ。そして繰り返し勉強することもまた必要なんだね。
 コンピュータはなかなかそういうのがむずかしい。そういうプログラムを組めば多少はできるんだけれども、相当凝ったプログラムを組まない限り、そんな学習はできないんだ。
 ともかく、表面に見えているものに振り回されないためには、学習のスピードの遅さがキーになる。ゆっくり覚えてはじめてルールの抽出ができる。つまり、授業で先生に「まだ覚えられないのか!」と怒られても、それは脳がそうなっているからしょうがないんだよね。これからは怒られても、そうやって先生に言い返せばいいからね。

(池谷裕二・著『進化しすぎた脳』P.192〜P.194)





【補記】

脳にとって「あいまいで いい加減な」記憶が重要であることを考えると、絶対音感といわれるものは 一時期(今でも?)もてはやされたような“素晴らしいもの”ではない、ことになりそうです。大橋力さんも『音と文明』の中で 「十二平均律が導き出した特異で深刻な現象」として 絶対音感に伴う問題を指摘されています。









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